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企画にあたって 岡井 崇
脳性麻痺発症原因の,現場の臨床的視点からの緻密な解析は,わが国のみでなくすべての先進諸国の周産期学術活動において,十分になされてきたとは言い難い.臨床経過と脳性麻痺発症の因果関係の科学的検証が難しいことに加えて,出産のきわめて残念な結果が惹起する憤りの感情や金銭的損害の負担を巡る対立と紛争が学術的原因究明に抑制的な影響を及ぼしてきたことも事実である.しかし,2009年に発足した産科医療補償制度によって,部分的にではあるが,後者の問題を切り離すことが可能となり,それによって今まで必ずしも明らかでなかった脳性麻痺発症の関連事象などが少しずつ見えてきたように思われる.
2012年11月までに原因分析が完了した事例は188件で,43件は「原因が明らかでない,または特定困難」と判断されているものの,145例で主たる原因が推定されている.それらは多岐にわたるが,多く見られる病態は常位胎盤早期剝離,臍帯因子,感染,子宮破裂,胎盤機能不全,胎児母体間輸血症候群などであった(表1).
「脳性麻痺─発症防止への挑戦」と題した本企画では,まさに挑戦の精神で,ほんのわずかであってもその発症率を低下させるためにできることは何かを,それぞれのテーマに沿って領域の専門家にご執筆いただいた.
難しいとは言え,脳性麻痺の発症率を低下させることは周産期医療に携わるわれわれ産婦人科医師の最重要課題のひとつである.原因に関連する因子のより詳細な病態の解明と,早期の診断法や迅速な対応策などについての指針の作成を進めるとともに,現場のわれわれができる防止対策への最大限の準備と確かな認識を持って分娩の管理に当たりたいものである.
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