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はじめに
近年わが国でも肥満を背景とした糖代謝異常や高血圧などいわゆるメタボリック症候群の増加が社会的関心を集めている.メタボリック症候群の発症には遺伝的素因のほか高脂肪食の摂取や運動不足などいわゆる生活習慣が大きくかかわっているが,近年の疫学研究や各種動物実験から,成人期のメタボリック症候群の発症には,胎児期から新生児期にかけての栄養環境が密接に関係していることが明らかにされてきた.
胎児期に低栄養に曝された児は胎児発育不全(fetal growth restriction : FGR)となり,small-for-gestational-age(SGA)として出生するが,多くの症例では新生児期に栄養環境が好転するとcatch-upする.近年の疫学研究や動物実験から,このcatch-upが成長後の肥満や糖代謝異常,高血圧など生活習慣病の発症と関連していることが明らかとなった.胎生期から新生児期にかけて各種臓器機能がそれぞれの時間軸によって発達するが,この時期の細胞に何らかのストレス(刺激)が作用するとそれに対応して遺伝子のepigeneticな変化がその細胞に生じると推測されている.このepigeneticな変化は成長後も持続するので,成長後に高脂肪食や運動不足などといった負荷がかかると,糖代謝異常や高血圧が発症すると考えられている.この現象は胎児プログラミングあるいはdevelopmental origins of health and disease(DOHaD)と呼ばれている.
本稿では,まず,母体低栄養に起因するFGRとして出生した児が成人後にメタボリック症候群を発症する機序に関する研究を紹介し,ついで,その予防に関しても考察する.
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