今月の臨床 ここが聞きたい―不妊・不育症診療ベストプラクティス
III 不育症の検査・診断 D内分泌・代謝因子
【内分泌・代謝異常】
98.不育症における甲状腺機能異常の病態について教えてください.本当に流産との関係はあるのでしょうか.
竹下 俊行
1
1日本医科大学産婦人科学教室
pp.639-641
発行日 2009年4月10日
Published Date 2009/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102087
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[1]甲状腺ホルモンの直接的影響
甲状腺ホルモンは,顆粒膜細胞,黄体,卵子に直接作用するので,その機能が損なわれれば卵巣機能に影響する.高度の甲状腺機能低下は,卵巣機能不全を惹起し,不妊の原因となる.軽度の甲状腺機能低下では,妊孕性は保たれるが,胎盤でのステロイド産生に支障をきたし,流産の原因となる.また,TRHが増加することにより,プロラクチンの上昇を招くのも不妊・不育の原因の1つである1).
過剰な甲状腺ホルモンの妊孕性に及ぼす影響は,甲状腺ホルモン受容体の変異(TRβ:Arg243Gln)をもつ167名の分析から明らかになった.患者の甲状腺ホルモン,TSHは,きわめて高値であり,胎児は胎盤を通過した高濃度のTSHにさらされることになる.母親が罹患している場合の流産率は22.8%で,父親のみが罹患2.0%,対照群4.4%に比べ明らかに高率であった2).
このように,甲状腺ホルモン自体が,妊孕性,妊娠維持に大きな影響をもっていることは明らかであるが,不育を主訴にして外来を受診する女性で,顕性甲状腺機能低下,亢進症を呈することは稀である.多くは,不育症原因検索スクリーニングを行って,初めて発見されるが,その程度は軽微である.
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