今月の臨床 無痛分娩・和痛分娩ガイダンス
III.硬膜麻酔分娩とその影響
硬膜外麻酔分娩と緊急帝王切開
44.硬膜外麻酔分娩時の緊急帝切について,具体例を挙げて説明して下さい.
磯部 孟生
1
1磯部レディースクリニック
pp.474-477
発行日 2004年4月10日
Published Date 2004/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101218
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1 はじめに
硬膜外麻酔(以下,硬麻と省略)分娩が緊急帝切となるのは,稀に臍帯脱出や前回帝切後の経腟分娩における子宮破裂,多くは常位胎盤早期剥離を含む重症の胎児ジストレスであろう.すでに留置してあるカテーテルを利用して,高濃度の局麻薬やオピオイドを追加投与すればただちに帝切に対応できる.また,硬麻分娩時にオピオイドを併用しているとき,母体の胃内容物の消化が遅延しているため誤嚥を生じやすいので,できれば全麻への転向は避けるほうがよい.アメリカでは0.75%ブピバカインが市場から姿を消し,局麻薬中毒による母体死亡が減少した.これに比べると全麻の死亡率は増加している.挿管の失敗が1/250例あり,これは非妊女性の手術時失敗例の10倍である.したがって,ACOG(American College of Obstetricians and Gynecologyists)は,緊急帝切のリスクが高まった産婦には早めに硬麻を行うことを勧めている1).
わが国の麻酔学会麻酔関連偶発症調査(1999)によれば,帝切の麻酔の3/4は麻酔科医ではなく産科医の手に委ねられている.帝切における麻酔中の心停止発生率は1万症例に対して1.89と多くはないけれど,その原因は高位脊椎麻酔や主麻酔薬の過量投与と局麻薬中毒であった2).脊椎麻酔と同様なリスクはあるものの,硬麻は分娩中から引き続いて帝切まで管理ができる点で優れている.しかし,手術時には分娩時よりも広い麻酔域と深度が必要なうえに,全麻に匹敵する短時間内の麻酔導入が求められる.
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