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1 診療の概説
“不育症”とは,厳密な定義を持つ医学用語ではない.強いて定義付ければ,成立した妊娠を完遂できず,健康な生児に恵まれない症例を指すものといえる.一般的には習慣流産を指すことが多いが,同義ではない.習慣流産とは3回以上流産を繰り返すことであり,流産の定義上,時期は妊娠22週未満に限定される.しかしながら,不育症といった場合は妊娠中期以降の子宮内胎児死亡や反復流産(流産回数2回)も含まれ得る.胎児形態異常のない10週以上の原因不明子宮内胎児死亡があった場合は,反復しなくても不育症の可能性を考慮するべきである.
1回の独立した流産の頻度は統計上約15~20%であり,決して珍しくない.その約60~70%以上は胎児に染色体異常があると報告されている.また,受精卵の約40%に染色体異常があり,それが出生時には0.6%に減少すると報告されており1),もし流産という自然淘汰が起こらなければ,出生した児の40%が染色体異常を持つことになる.したがって,ある意味では流産の多くは病的ではなく,それを止めることもできないし,止める必要もないということになる.1回や2回の流産既往があっても,それが直ちに病的であり,不育症であるということにはならない.ちなみに,1回の独立した妊娠の流産の頻度を20%と仮定すると,反復流産率は0.2×0.2=0.04で4%,3回流産率は0.04×0.2=0.008で0.8%となる.したがって,反復流産の場合は病的原因を持たず,不育症とはいえない場合も多いが,3回以上自然流産を繰り返した習慣流産の場合は自然淘汰という考えでは確率的に説明できず,不育症の原因を検索することになる.
不育症の原因は多岐にわたっており,系統立てた諸検査を施行し,総合的に判断して方針を決定する必要がある.
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