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はじめに
日本女性の妊娠中の体重増加量について,日本産科婦人科学会栄養問題委員会報告1)では平均11.46 kg,妊娠中の生理的体重増加量は7~13 kg,妊娠後半期の生理的体重増加量は300~400 g/週,1,200~1,600 g/月としている.
妊娠中の体重増加が多過ぎると起こりやすい異常としては,妊娠高血圧症候群(PIH),妊娠糖尿病(GDM),巨大児,微弱陣痛,分娩遷延,弛緩出血,帝王切開率の上昇などが挙げられる.
妊娠中の体重増加が少な過ぎると起こりやすい異常としては,低出生体重児,神経管閉鎖不全(二分脊椎,無脳症など)などとともに最近注目されているのが胎児期成人病発症説(fetal origins of adult disease : FOAD)であり,2003年,イギリスのBarkerらによって報告されている(Barker説)2).すなわち,胎児期の母親の低栄養状態が成人病の素因をつくるというものである.高血圧症,動脈硬化,冠動脈疾患などの血管内皮機能異常,2型糖尿病,インスリン抵抗性,高脂血症などの糖代謝・脂質代謝異常,腎糸球体数の減少による腎疾患などは胎児期の低栄養が関与し,出生後の環境因子と相俟ってこれらの成人病発症率が高くなることを報告している.
妊娠中の体重増加に関して,日本産科婦人科学会周産期委員会3)では,非妊時BMI別に定めており,BMI 18以上24未満の標準体型では7~10 kg増加,BMI 18未満のやせ体型では10~12 kg増加,BMI 24以上の肥満体型では5~7 kg増加としている.愛育病院でもこの基準に沿ってBMI別の妊娠中の目標体重増加曲線を作成し使用している4).しかし,この数値の妥当性を証明する多数例の成績は乏しい.
一方,本邦においては食生活の欧米化によって肥満,2型糖尿病,高脂血症の増加が問題となっているが,生殖年齢である20~30歳代女性においては,やせ体型が増加傾向にある.国民栄養調査5)によれば,最近の20年間で20~30歳代のBMI 18.5未満のやせ体型女性は12%から26%と2倍以上に増加している.これら若年のやせ体型女性では栄養のバランスに偏りがあることも多く,また妊娠中でも食生活が改善されず,妊娠中の体重増加が少な過ぎることも多い.東京都健康局の母子医療統計6)によれば,妊娠中の体重増加量は年次経過として減少傾向にある.当院の正期産児の成績では,出生体重2,500 g未満の低出生体重児の発症率は平均5%前後であるが,BMI 18.5未満で妊娠中体重増加量が5~7 kgではその発症率は12.7%,5 kg未満では21.7%もの高値を示した7).
本稿では,愛育病院で管理された妊婦について,非妊娠時BMI別の妊娠中体重増加量と周産期合併症の発症率の関連を示し,妊娠中の至適体重増加量について検討した8).
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