視座
科学記事
星野 孝
1
1獨協医科大学整形外科
pp.93
発行日 1982年2月25日
Published Date 1982/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408906477
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つい先日,ある週刊誌の取材陣の一人から電話があった.最近の子供の骨が弱くなっている原因について意見を聞かせて欲しいというのである.この問題は去年の日本整形外科学会で,土屋会長がパネルディスカッションとしてとりあげた問題である.そのときの指定発言で述べたように,現代っ子の骨が栄養学的見地からみて昔の子の骨より弱くなっているとは私には到底思えない.国民栄養統計をみても,国民の栄養摂取量はカルシウム,蛋白を始め,向上している.もし一歩ゆずって骨が昔にくらべて弱いという事実があると仮定するならば,それは「骨の構成要素が,その配向と質量が変化することによって,外力に機能的に適応する」というWolffの法則に基づいた「筋の活動の低下(そのよい例が児童の塾通い)による骨形態の劣弱化」傾向ではないだろうか,また世上よく問題となる食品添加物の問題については,鍵っ子など特殊の環境にあって偏食の傾向の格別強い児を除けばほとんど問題にならないはずであると,要旨以上のような意見を述べたところ,「階段の三段目からとび降りたら骨折した子がいるというではありませんか」と追求の手をゆるめない.「そんな特別な子は昔もおりました」と答えて,とにかくケリをつけた.果たせるかな,別冊として送られてきた週刊誌には私の意見は一つも引用されておらず,整形外科領域以外の方達の談話ばかりがのっていた,引用をしていないにもかかわらず,月末には取材謝礼を送ってきたところはさすがに一流誌と感心したが,同時に雑誌の科学記事を読むにあたって批判的精神を常に失ってはならないことを痛感した次第である.
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