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最近各大学で基礎教室の充実が問題となつている.戦後医学部卒業生は基礎を志すものが減少し,そのため大学の基礎教室は医学部卒業生以外の人々で支えられているのが現状である.勿論学問の進歩にともなつて基礎医学の研究分野もますます分化し,薬学部や理学部,さらに工学部などの卒業生が,その方面の専門家として基礎医学の研究にたずさわるようになり,そのこと自体が決して悪いとは思われない.実際に米国においても基礎医学者にはM. D.は殆んどおらず,Ph. D.が大部分を占めている.ただ私ども医学者は,基礎的研究は終局的に臨床につながるものと確信している.この点が医学部卒業生でない研究者に欠けているとすれば,事は重大である.米国をみても基礎医学と臨床との関連づけが決して密ではないといわれている.ゆえに将来医学部卒業生が基礎教室にふえて,層を厚くすることが望まれる.
約25年前の日本整形外科学会では,その演題の大半が臨床的発表であり,基礎的研究は極めて少なかつた.当時の日本外科学会をみると,生化学,ホルモン,生理,病理,などの基礎的研究が多く,その広さと深さに驚いたものである.その頃の整形外科では,臨床的研究,あるいは臨床と直結した基礎的研究以外は問題としない傾向があつたように思う.所がどうだろう.1昨年京都での第14回SICOTでは,同時に第1回SIROT(International Research Society)がもたれ,整形外科に関する基礎的研究の発表が盛大に行われた.また昨年の第52回日本整形外科学会でも,臨床研究と基礎的研究の発表の会場を意識的に分ける試みがなされ,将来整形外科学会でも基礎分科会を分離独立する準備が行われた.このように整形外科においても基礎的研究は盛となり,これにたずさわる整形外科医の増加と共に,研究内容もより高度に,より広範囲になつてきている.ゆえに今日では臨床的研究でなければ研究でないと考える整形外科医は少なくなつてきた.
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