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はじめに
遺伝子改変T細胞には,腫瘍抗原を認識するT細胞受容体(T cell receptor:TCR)遺伝子を自己リンパ球に導入するTCR遺伝子導入T細胞(TCR-T)と,腫瘍細胞の表面抗原を認識するモノクローナル抗体の結合部位遺伝子とCD3zetaなどの遺伝子とのキメラ遺伝子を導入するもの(キメラ抗原受容体[chimeric-antigen receptor:CAR]-T)の2つの遺伝子改変細胞療法がある(図1,表1).
TCR-T療法は,患者自己リンパ球を拡大培養しながら,ウイルスベクターなどを用いる遺伝子導入技術により腫瘍抗原特異的TCR遺伝子をT細胞に導入し,再び患者に輸注する細胞療法である.CAR-Tの標的抗原はCD19などの細胞表面にある分子であるのに対し,TCR-Tは細胞内で抗原プロセシングを受け,主要組織適合抗原(major histocompatibility complex:MHC)に提示されたペプチドを遺伝子導入したTCRが認識するため,標的抗原は主に細胞内抗原である.TCR-Tの抗原は,CAR-Tに比べ,多種な抗原が知られていて,メラニン色素産生細胞に由来するメラノーマ関連抗原(MART-1,gp100),がん精巣抗原(NY-ESO-1,MAGEファミリー遺伝子群)がある.
TCR-T療法の臨床試験の初めての報告は,2006年にアメリカ国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)からScience誌に掲載されたメラノーマ17例での治療研究である1).腫瘍抗原ペプチドを認識するTCRの遺伝子をクローニング技術で同定し,そのTCRα鎖とβ鎖遺伝子をウイルスベクターなどでT細胞に導入し,養子細胞療法として輸注するものである.これまでの臨床試験の報告を合わせると,メラノーマ,滑膜肉腫,食道癌,大腸癌および複数のがん種(乳癌,骨髄腫など)の文献報告があるが,メラノーマと滑膜肉腫を対象にした臨床試験が多い.本稿では,メラノーマと整形外科領域での診療対象となる軟部肉腫のTCR-T療法の臨床的成果,意義および課題について解説する.
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