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はじめに
悪性骨軟部腫瘍の治療成績は,1970年代後半から90年代にかけて,大量メトトレキサート(MTX)療法,アドリアマイシン(ADR),シスプラチン(CDDP),イホマイド(IFO)など“当時の新規”治療薬の登場により大きく改善した.骨肉腫は不治の病ではなくなり,転移した悪性軟部腫瘍の患者さんの中にも長期生存する者が出てきた.これら薬剤の抗腫瘍効果,予後改善効果に支えられて,局所治療法もそれまでの切・離断術から患肢温存術に大きく舵を切ることが可能となった.まさしく,悪性骨軟部腫瘍の歴史における“Annus Mirabilis(奇跡の年月)”といっても過言ではない.しかし,残念ながら,その後,新たな抗腫瘍薬の開発がみられない年月が続く中で,臨床医のさまざまな工夫・努力にもかかわらず,悪性骨軟部腫瘍全体の治療成績の向上は,過去20年間,頭打ちの状況が続いてきたと言わざるを得ない.
国立がんセンター(現国立がん研究センター中央病院)における過去20年間の骨肉腫(四肢原発,初診時Stage IIB,全87例)の治療成績を治療プロトコール(年代)ごとに比較すると,全症例の5年累積生存率は86.6%,Rosen T-12(1986~1992年)83.0%,NECO-93,95J(1993~2002年)85.3%,NCCH2003(2003~2007年)92.8%であり,各プロトコール(年代)間で有意な治療成績の向上は認められない(P=0.499)1).一方,同センターの悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の治療成績(2006年度初診,全146例)を初診時American Joint Committee on Cancer(AJCC) Stage別に検討すると,全症例の5年累積生存率は67.0%,Stage I(51例)100%,Stage II(25例)94.7%,Stage III(37例)54.1%,Stage IV(33例)10.4%であった.これは米国メモリアルスローンケタリングがんセンターにおける成績(Stage I 92%,Stage II 83%,Stage III 48%)とほぼ同等であり,その治療成績に大きな改善はみられない14).
すなわち,悪性骨軟部腫瘍において,既存の抗がん剤を使用したプロトコールでは治療成績のこれ以上の劇的な改善は難しいと考えられること,遠隔転移例など進行例の治療成績はいまだ満足できるレベルには達していないことは明らかであり,新たな有効薬剤・治療法の登場が切望されてきた.このような状況の中で,希少がんである本領域においても,近年ようやく新規薬剤開発の動きが生じてきた.本稿では,わが国におけるこれら新規薬剤開発の現状と展望について概説する.
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