連載 工学からみた整形外科・3
書を捨てず,町へ出よう―科学的事実を生活に結びつける工学
富田 直秀
1
1京都大学工学研究科機械理工学専攻医療工学分野
pp.348-352
発行日 2011年4月25日
Published Date 2011/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408101964
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■はじめに
「書を捨てよ,町へ出よう」とは寺山修司が書いた評論の題名だが,その言葉の持つ開放感に共感した人たちが,演劇や映画などの分野で幻想と現実が交錯する様々なパフォーマンスを展開したらしい.らしい,というのは,実は筆者も寺山修司のなんたるかをあまりよく知らない野次馬なのである.ただ,「工学から見た整形外科」という企画と,馬淵清資先生や藤江裕道先生の書かれた第1回,第2回の文章「整形外科を支える工学」を拝見して,はてさてこれだけの文章の後にいったい何が書けるのだろうか,と思案したときに頭に浮かんだのが「書を捨てよ,町へ出よう」という言葉であった.書名だけ盗んでおいて,その内容に触れぬのもあまりにいい加減なので,表題本をはじめ寺山修司の文庫本をいくつか斜め読みしてみた.すると,どの本にも近親相姦,強姦,嬰児殺し,売淫,姦通,殺人,窃盗,獣姦,放火,略奪,親殺し…と,あらゆる悪徳があからさまに論じられている.これは,品位ある学術誌に使うべき題名ではないのか,と諦めかけたのだが,しかし,読み進むうちに,この作者はむしろ徹底的にまじめな人なのではないだろうか,と思えてきた.第一,寺山修司は書を捨てるどころか,むしろ常人離れした読書の虫であったらしい.ではいったい彼は何を捨てようとしているのだろうか,などと迷いながら,やはりこの言葉の類似品を題名に盗用させていただくことにした.
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