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われわれ整形外科医は日々の診療において痛みを主訴とする患者を診察し,手術適応になる疾患や陽性の画像所見を見出そうと努力する.しかし,主訴として非常に多い「腰背部の痛み」に関しては,むしろ陽性所見を見出すことができずに変性所見をあえて陽性所見として患者に説明してしまうことが多いのではないだろうか.そして,陽性所見がまったくない,あるいはあっても軽度な所見のため,変性疾患という診断のもとに「年のせい」にされて納得できない疼痛患者は「cure」を求めて行き場(治療してくれる場所)を探すことになってしまう.患者が病院あるいは診療所での診断と治療に不満を抱いて代替医療に救いを求めるだけでなく,同じ病院内でも適切な診療科にめぐりあうことができず苦慮している患者が現実として多いのは残念なことである.整形外科,神経内科,精神科,麻酔科(ペインクリニック)など各診療科で治療方針や目的がばらばらに対応してしまえば,患者は疎外感を感じ治療効果を実感できないことになる.
痛みには心理・社会的因子が深く関与しているため,著者らは「腰背部の痛み」を「local pain」としてではなく,「生物・心理・社会的疼痛症候群」という「total pain」として多面的に捉えて診療にあたることの重要性を強調している.そして,痛みを「cure」だけでなく「care」することに努力し,痛みによる機能障害を最小にするような専門的支援を行うよう勧めている.そのためには,他の診療科の治療内容を理解し患者の疼痛緩和と機能障害の克服という治療目標を共有しながら連携し,うまく機能した集学的アプローチで対応することで,患者に安心感が生まれ前向きになることがよい治療結果につながると著者らは指摘している.特に,多くの整形外科医が知りたい東洋医学的アプローチや精神医学的アプローチなど,疼痛に対する集学的アプローチの理論や実践に関して各専門家が詳細に記載している点は,痛みを主訴とする患者を診療し治療するうえで非常に参考になり一読に値する.
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