誌上シンポジウム 肘不安定症の病態と治療
緒言
荻野 利彦
1
1山形大学代謝再生統御学講座運動機能再生・回復学分野(整形外科学)
pp.1244-1245
発行日 2006年12月1日
Published Date 2006/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408100984
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肩関節の前方不安定性anterior instability,多方向不安定症multidirectional instabilityや手関節での手根骨不安定症carpal instabilityという疾患名が一般的になってから随分時間が経過した.しかし,肘関節では不安定性,あるいは後外側回旋不安定性posterolateral rotatory instabiloityという用語がしばしば使われているが,肘不安定症あるいは肘関節不安定症という用語はそれほど耳にしないし,日本整形外科学会の用語集にもその記載がない.肘関節に不安定性を生じる疾患としては外傷による脱臼あるいは靱帯損傷がまず頭に浮かぶ.しかし,スポーツ障害や内反肘の長期観察例で肘関節の不安定性が生じることが明らかになり,O'Driscollらにより肘関節外側回旋不安定症という概念が提唱された.同時に,急性の靱帯損傷や慢性の靱帯不全を総称して肘不安定症と呼ぶようになってきている.
肘関節外傷性脱臼に伴う肘関節内側側副靱帯損傷や,外反ストレスによる外傷性肘関節内側側副靱帯損傷については,損傷時に修復すべきか否かがしばしば問題になる.屈筋回内筋群の断裂を伴う場合は肘関節は高度の不安定性を呈することから,靱帯修復を含めた軟部組織の修復をすべきとの意見が多い.しかし,屈筋回内筋群の断裂を伴わない肘関節内側側副靱帯損傷や不全断裂を保存的に治療した場合の肘関節不安定性の残存する割合や程度は必ずしも明らかではない.
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