Medical Essay メスと絵筆とカンバスと・1【新連載】
日展と私
若林 利重
1
1東京警察病院
pp.98-99
発行日 1993年1月20日
Published Date 1993/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407905117
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電話口へ出たら「医学書院の大島です.」瞬間,頭から水をあびせられたというか,逃げ場のない窮地に追いこまれたというか,そんな絶望感に陥った.「誠に申し訳ありません.」とだけ言ってあとの言葉がでなかった.弁解のしようがなかったからである.しかし,大島氏はすぐ「今日は別のお願いです.」と言った.救われたと思った.「臨床外科の随筆の欄に登場していただきたいのですが,先生でないと書けない絵のことについての……」である.「そういうことであれば書かせていただきます。」と即座に答えた.こんな開放感は滅多に味わえない.実は大島氏には大分前から本の執筆を依頼されているのであるがなかなか手がっかず約束を果たしていないのである.
今年,私は日展で二度目の特選をもらった.上野の精養軒での日展洋画の懇親会で10名の特選受賞者を代表して挨拶をさせられた.「……私は48年間外科医の仕事に全力投球してきましたが今年の3月外科医の第一線から身を退くことになりました.全くメスを捨てたわけではありませんが,やっと画業に専念することができるようになったわけでして……,」この席ではこういわざるをえなかったのである.
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