勤務医コラム・49
求む書類退治人
中島 公洋
1
1慈仁会酒井病院外科
pp.714
発行日 2013年6月20日
Published Date 2013/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407104625
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- 文献概要
勤務医は疲れている.その疲れの原因について,比喩的に考察してみました.
舞台は夏の海.今日も海水浴場は多くの人で賑わっている.砂浜では奥様方がバーベキュー.波打ち際では家族連れがはしゃいでいる.はるか向こうに点々と見えるのは,遊泳禁止区域を知らせる旗だ.あの旗の向こうは急に深くなっていて,潮の流れが速く,サメも出るので危ない.あそこで溺れかけている人を救うのがわれわれの仕事.命がかかっている人は多くを語らないが,その願いは切実だ.旗の向こうで一仕事終えた後,波打ち際の砂遊びを横目に見ながら,われわれは海から上がってきた.「今日もいろいろあったなぁ.アー疲れた.さぁて一杯やるか」と通り過ぎようとしたら,「ちょっと,そこのアナタ,コレ,どうなの?」と奥様方から呼び止められた.“バーベキューで何を一番先に焼くべきか”を議論しているのだ.議長もいる.ちゃんとした会議のようだ.報道各社の記者たちもたくさん来ている.旗の向こうには誰もいなかったのに,こういうところには必ず記者と弁護士がいる.私が,「そんなもん,テキトーでエエやん」と発言したら白い目で見られた.議長が「そんないい加減なことでどうするの! ものには順番というものがあるのヨ.書類を整備しなきゃ.委員会ひらいて研修やって,キチンとしたガイドラインを作るべきヨ!」と,のたもうた.正論だ.私は「オイオイまた紙が増えるの? 勘弁してくれよ」と蚊の鳴くような声でつぶやいたのだが,意気軒昂な人々の声にかき消されてしまった.本来の仕事による心地良い疲れに変な疲れが混じり合って,今日もlifesaverの当直の夜は更けてゆくのであった…….
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