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私が大学を卒業し,呼吸器外科(当時そういう名称は一般化されてはいなかったが)の医師として仕事を始めてからもう40年近くになろうとしている.40年とは,当時生まれた方が外科医になったとして,バリバリの指導する立場の年代になっているという大変長い期間である.しかし,その間に呼吸器外科には多くの転機があり,今となってはあっという間のように思われる.当時は,もちろん標準開胸と称する30 cmに達しようという大きな開胸創で手術を実施していた.慢性膿胸に対する剝皮や肺全摘,顔面位での肺切除手術なども珍しくなく,困難な炎症性肺疾患の手術の時代の名残がその標準開胸としてあった,そういう時期である.その後,肺癌の手術例がうなぎのぼりに増加し,呼吸器外科の独自性の確立とともに胸腔鏡手術の導入,そして低侵襲な手術をめざす動きが加速してきた.そして肺移植のスタートにより,呼吸器外科にさらなる新たな1ページが開かれた.そういったいわば激動の40年間であったと思う.著者の白日先生は私にとっては一つ前の世代で,約10年先輩にあたる.この年代の方々は,呼吸器外科の専門性と独自性の確立に心血を注がれた方々で,学会の確立や専門医制度の樹立にも大いに力を尽くされた.
なぜこのようなことを長々と書き連ねたかというと,この書が,結核外科の時代の終焉を迎えた後,呼吸器外科としての,いわば第二の黎明期を築き上げた世代の代表的なお一人によって書かれた手術書であるということを申し上げたかったからである.本書のタイトルに「すべて」という言葉が掲げられているが,これは単に幅広く手術の手技・手法を網羅しているというだけではなく,私のような人間が本書を拝見すると,白日先生が歩まれた50年近い年月と歴史のすべてを盛り込んだ書にしようとする,著者の思いと意気込みがぎゅっと詰め込まれた一言であると理解できる.
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