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はじめに
気管形成術の歴史では,気管をいかに授動してその可能切除長を得るかという点が論じられてきた.1950年にFergusonらが動物実験によって気管全長の1/3が切除可能であることを示し,1957年にBarclayらが腺様囊胞癌に対して5cm管状切除および端々吻合による分岐部再建を施行した.1959年にはHarrisらが頸部屈曲位と伸展位で2.6cmの授動が可能であることをX線で示し,1964年にGrilloらが屍体で全長1/2切除および端々吻合が可能であることを証明した.1974年にMontgomeryらは喉頭授動術を発表し,1975年にPearsonらによって喉頭下への浸潤病変に対する反回神経を温存した輪状軟骨を含む喉頭気管切除の一期的再建術式が報告されている1).
一方,気管支形成術は1947年にPrice-Thomasらが最初に気管支の管状(スリーブ)切除および端々吻合による再建を行ったのが始まりと言われており,1954年にAllisonらが肺癌に対する最初のスリーブ肺葉切除術を報告し,1955年にPaulsonらが気管支形成術(bronchoplastic procedures)と名付けている.
気管形成術の適応は,悪性疾患では腺様囊胞癌,扁平上皮癌などの原発性気管腫瘍,甲状腺癌,副甲状腺癌,食道癌の気管浸潤などの続発性気管腫瘍がある.良性疾患では先天性や炎症性(結核性や気管内挿管後)の気管狭窄,外傷性気管断裂,気管食道瘻などがある.気管支形成術の適応は,悪性疾患では原発性肺癌の直接または肺門部リンパ節を介した浸潤によるものが多いが,そのほかに結核性気管支狭窄,気管支良性腫瘍,外傷性気管支断裂,小児の先天性気管狭窄などがある.
気管支形成術は術中の気管支断端の迅速組織診の結果によって全摘術を選択しなければならない可能性があるため,術前に呼吸機能や一側肺動脈閉塞試験による残存肺機能の評価が必要となる.一方,気管形成術では代替の術式がないため,術前に腫瘍の浸潤部位と,ある程度のマージンを考慮した気管切除長の正確な計測が必要となる.Mullikenら2)の気管の授動と平均切除長との関連の報告では,甲状腺峡部剝離および頸部屈曲(15~35度)によって4.5cm(気管軟骨数7.2個),心膜切開による右肺門部授動によって1.4cm(気管軟骨数2.5個)の平均切除長が得られている.
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