ひとやすみ・44
立場が思想を決める
中川 国利
1
1仙台赤十字病院外科
pp.337
発行日 2009年3月20日
Published Date 2009/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407102497
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- 文献概要
さる高名な経済学者の言葉に「思想が立場を決めるのではなく,立場が思想を決める」がある.確かに,恵まれた環境にもかかわらず,劣悪な環境下に置かれた人々のために尽くす高徳な人も稀ながら存在する.しかしながら,人は自分の立場で物事を考え,自分に有利な行動をするのが古今東西の習いである.
私が医師になり立ての頃には,診療能力を早く身に付けるため,より多くの患者さんを診たいと思った.そこで時間外でも病院内に待機し,救急患者の治療を積極的に行った.そして,急性虫垂炎と診断しては深夜でも先輩医師を呼び出し,消極的な先輩には「患者さんが痛がっているのに放置するのですか」と批判さえした.確かに若い時代は臨床に従事することが大好きで,働きずくめでもあまり苦にはならなかった.しかし,50歳代も半ばを過ぎると疲れが出てきた.特に当直では,明日の通常業務を考えると救急を受け入れるのが億劫にさえなった.そこで,手に余る救急依頼患者さんには「今は救急対応のため」とか「専門外のため」などと,何かと理由をつけては収容を断りがちになった.
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