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あるスーダン人女性の結婚
その女性は,日本にいる兄弟を頼って日本の大学で修士をとっており,大変な親日家である.私がスーダンで活動を始めたときから,何かと助けてくれた.彼女は目がぱちりと大きく,いわゆるスーダン的な美人である.少しぽっちゃりとしているが,スーダンでは,またそれが男性を魅了するのである.実際,彼女はもてた.何人ものスーダン人男性が言い寄ってくるのを見てきた.彼女には意中の男性がいた.出身地も同じで親同士は結婚させたがっている.しかし,彼は別の女性に思いを寄せていた.その女性は彼とは出身地が違い,彼の両親は反対であった.彼女は,彼は両親思いだから,きっと彼女と別れて自分と一緒になると思っていたようだ.スーダンは婚姻に関して保守的な面がある.特に北部地方では顕著である.また,いとこ同士の結婚が多い.血の濃さによる弊害も指摘されるが,ここでは述べない.彼にも会ったことがあるが,長身でとても美男子であった.しかし,彼は結局,彼女には振り向かなかった.彼女はもう適齢期を過ぎており,「私はキャリアウーマンとして生きるわ」などと話していたこともあった.そして,われわれの活動もよく手伝ってくれた.NGOの活動はなにかと役人ともめることが多い.また,役所の各部署をたらい回しにされ,簡単な処理が何日,何週間とかかることが多々ある.そんなとき,彼女に登場願う.彼女は,われわれ側についてスーダンの役人とタフな交渉をしてくれた.彼女の美貌にスーダンの役人は翻弄されているようであった.ロシナンテスの資金が集まり,スーダン人スタッフを雇うことができるようになれば,真っ先に彼女を雇おうと考えていた.
そんな時,彼女から突然電話があり,「結婚する」と言われた.新しい彼ができたのは知っていたが,突然である.彼はUAE(アラブ首長国連邦)の大学の先生である.スーダンの優秀な人はこのように海外に職を得る人が多い.彼女は結婚してUAEに行くらしい.結婚式は大勢の招待客と生バンドと優秀な歌手を呼び盛大に行われた.数多くいた男友達は顔を見せていない.スーダンでは,そういうものか.花嫁姿の彼女は確かに美しく,光り輝いているが,もう昔の彼女ではなく,遠くへ行ってしまったようで,なんとなく寂しい思いで,きらびやかな結婚式場を後にした.別に彼女に恋心を抱いていたわけではありません,あしからず.
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