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本号には眞崎教授らによるエンドセリンの総説を頂いた。エンドセリンは言うまでもなく眞崎教授らのグループにより最近発見された血管内皮細胞の産生する血管収縮作用を持つペプチドであるが,その発見以来,全世界的な興味をひきつけて,短時日の中に,膨大な量の研究が行われ,急激にそれに関する知識が増した。中枢神経系においても神経ペプチドの一つとして働いているのではないかと考えられている。
このエンドセリン研究の見事な進展の経過を見ると,時代が変わった,という感じがつくづくする。我々が研究生活を始めた約30年前には,物質レベルの話と機能とがなかなか結び付かなかった。例えば相当大量に存在する生体物質を生化学的に単離精製しても,その機能については,全く不明であることがしばしばであった。そして,その機能を明らかにするのに時間がかかり,その研究者一代では決着がつかない,ということも多かった。その様な状況では,主として機能の方に興味のある私などは,そんな物質をいじくって見ても仕方がない,と考えてしまう。あるいはまた,良く似た機能を持つ物質として二つの研究室で別別に取り出されたものが全く同一物質なのか,良く似てはいるが別々の物質なのか,等の問題にも,解明に至るまでに随分と時日を要したものである。しかし,最近の種々の分析法の進歩,さらには,分子遺伝学,遺伝子工学の進歩によって,ポリペプチドや蛋白質を始めとして,物質の同定やその機能の解明を非常に急速に進めることが出来るようになった。ある物質を取り出しても,自分の研究生活の終わりまでにその機能がどんなものか解明できないかも知れない,という状況と,二,三年でほとんど解明できる,という状況とは,根本的に異なる。現代のようなスピードになれば「初めに物質ありき」で,何だか分からない物質をまず確認してからその機能を探る,という手段も有力な方法となる。機能研究の進め方も,その様な進歩した事情を踏まえて考えねばならない。
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