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I.緒言
松果体は太古インドの文献中にも神秘的な意養が与えられている8)のすなわち人間の霊覚中枢であり,また霊魂と身体の交流する場とされている。これはDescartesが,松果体を精霊の座(The seat of the soul)4)であると記載した事実とよく一致していることで興味深い。どこまでも対称的に2つずつ存在する中枢神経のなかで,ただひとつその正中深部のかくれた場所にある小さな丸い松果体に,神秘的な最高中枢的意義を付したことは,われわれ20世紀の人間にとつても,まんざら合点のいかないことでもない。しかし実際問題として松果体にどれだけの機能があるかということになると,諸説紛々たるもので,決定的なものはない。この松果体の腫瘍について初めて報告したのはBlaueであるが31),その後Vir—chow, Krabbe, Globus, Russellら12)17)により臨床症状その他の解明がなされてきた。しかしその手術については,Brunner, Rorschach16), Dandy5), Van Wagenen30),荒木2),Horrax7),植木29)などによる発表があるが,松果体腫瘍の療法としては,減圧手術に,深部照射療法を併用することが最も良い方法であり,全摘手術は,もはや断念すべきであろうという芻勢になつてきている。結果的にみると,この神秘的な松果体の腫瘍には手をつけるべきものではないと暗示しているようにも思われる。今から約10数年前の日本脳神経外科学会で,わが国脳外科の大家諸先生が異句同音に,pinealomaの手術に一生に一度でもよいから成功してみたいものだといわれたことを思いだすが,その直後に中田瑞穂先生がpineal teratomaの全摘成功第1例目を報告され14),そのときの患者は今なお健在であるとのこと,まつたく由喜ばしいかぎりである。何事によらず一度記録が破られると,続いて紀録が更新されるもののようで,その後,荒木,光野,桂—鈴木,陣内,泉あるいは本田ら11)20)によつて全摘成功例が得られるようになつた。しかしこのような症例が得られても,前述のように姑息的手術が,わが国のみならず世界的芻勢であることにはまちがいない。かつて鈴木は,桂重次教授の指導のもとに,現在まで19例のいわゆる松果体腫瘍(pinealoma, pineal teratoma, ectopic pinealoma)の摘出手術を行なつたが,一応の成績をあげ得たと思うので,ここに松果体腫瘍の摘出手術について19例の経験を述べ,ご教示,ご批判をお願いする次第である。すでに,教室31症例(現在33例)の臨床症状,病理組織所見については発表してあるので19)24)27),今回は手術およびその前後の問題および遠隔成績について述べたい(第1表)。
The surgical removal of a pinealoma continues to be one of the most challenging problems for neuro-surgeons and the most popular treatment of this tumor has been shunt operation and/or radiotherapy.
Inspite of the geat surgical risk there is a pos-sibility of total removal of a pinealoma with a per-manent cure. 19 cases of pinealomas have been recently removed surgically with the aid of meticu-lous operative techniques, continuous ventricular drainage, hypothermic anesthesia, administration of corticosteroids and anticonvulsives, parenteral fluid therapy and other careful postoperative treatment.
16 of the patients were discharged in good or fairly good condition, and 3 died before discharge. From these experiences, the surgical removal ac-companied with postoperative radiotherapy would be the most recommendable treatment of pinealoma.
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