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〔113〕脳性痙性麻痺に対する定位的室頂核侵襲の効果
Moruzzi, Chambers等(1955)の基礎的研究,竹林(1955)の臨床的研究より考えて,小脳室頂核が姿勢及び骨格筋,眼筋緊張の維持に対して重要な役割りを演じていることが明白となつた。すなわち室頂核頭部を撰択的に刺激すれば,同側上下肢は伸展し,筋緊張は増強する。尾部を刺激すれば反対側上下肢が伸展し,筋緊張が増強する。これら頭部または尾部を破壊すればこの関係は逆転する。
しかし一側室頂核を全般に破壊すれば同側上下肢の筋緊張は低下し屈曲傾向となる。この事実を脳性痙性麻痺のstretch spasm, hyper-reflexiaの治療に応用した。すなわち定位式脳深部手術装置を用いて,多極電極針(外径0.5mm,極間距離2mm,6極)を室頂核に挿入留置し,各極を電気刺激(2〜5V,300c. p. s. 1msec)し刺激効果の著明な電極を通じてこれを凝固破壊し治療の目的を達した。9例の脳性痙性麻痺に対して室頂核を侵襲し,おおむね満足すべき結果を得た。多極電極針の各極を双極電気刺激し,誘発筋電図法により,H波を観察するに室頂核に相当する部位が的確に刺激されるとH波の振幅は増大する。またI-T曲線でH波閾値を検討すると,室頂核侵襲により同側肢の閾値は上昇し,反対側肢は軽度低下する。stretch reflex E. M. G.を検討すると術後同側上下肢のrigo-spasmは軽快するが,殊に下肢においてその効果が著るしく容易に屈曲可能となる。Stretch spasmの治癒とともに足間代は消退し,さらに配属筋群の硬直,冷厥感も治癒する。両側伸展痙縮例において,両側室頂核破壊を試みた例では,その効果はまず下肢に著るしく胡坐可能となり,上肢の痙縮も漸次軽快した。このことは生理学者の除脳動物実験成績(両肢伸展)と必ずしも一致しないところである。
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