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はじめに
高次脳機能障害の正確な定義はまだないといってよい。本稿では,脳の病変によって生じる,運動障害や感覚障害を除いた主な行動の異常を指すことにする。これらの中には,言語の障害である失語,道具を用いるなどの障害である失行,あるいは物をみてそれが何であるかわからない失認などが含まれる。
ここで一言注意が必要である。現在の日本では,同じ「高次脳機能障害」という用語が2つの意味で用いられている。1つは科学的な用語としての高次脳機能障害であり,もう1つはいわば行政の用語である。以下の議論は,主に岩田の総説(2003)を参照されたい。行政的な用語としての「高次脳機能障害」は,記憶障害,意欲障害,注意障害,そして遂行機能障害だけを高次脳機能障害としている6)。このような用いられ方をする背景には,交通外傷などによって生じた前頭葉の障害によって,明らかな失語・失行・失認などの障害がないのにもかかわらず社会復帰ができない主に若年の患者の救済ということがある。このような患者が福祉行政の谷間におかれ,社会福祉の対象となってこなかったため,厚生労働省が高次機能障害支援モデル事業を立ち上げたのである。そこで用いられる高次脳機能障害は,失語・失行・失認を含んでいない。しかし,従来から用いられているいわば科学的用語としての高次脳機能障害は,当然ながら失語・失行・失認を含んでいる6)。以下では科学的な用語としての高次脳機能障害について述べる。
この論考では,まず高次脳機能障害の診察の目的について触れる。次に失語について述べる。失語を取り上げるのは,失語が最も多い高次機能障害の症状であるからである。失語の定義を述べるが,この定義の中でも重要と思われるポイントを解説する。このポイントは他の高次脳機能障害についてもあてはまる。次に半側空間無視について,特に半盲との違いについて述べる。また半側空間無視のメカニズムの解明は,脳科学の重要な問題と関連することを述べる。この論文で用いた高次脳機能障害に関する用語については,初出のところで全部の用語の説明をしていない。主に文献5)13)14)17)などを参照されたい。
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