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第11回日本アルコール精神医学会は,1999年7月30,31日の両日,滝川守国会長(鹿児島大学神経精神科教授)のお世話で,鹿児島市民文化ホールで開催された。プログラムは,特別講演1,シンポジウム2,一般講演21と比較的小規模な学会であったが,桜島を真正面に眺望し,しかも真夏の鹿児島ということで,いかにも鹿児島らしい雰囲気の会場へ169人の参加者が集った。
特別講演は,Scott E. Lukas博士(Associate Professor of Psychiatry, Director of Behavioral Psychopharmacology Research Laboratory, McLean Hospital/Harvard Medical School, Belmont, MA, USA)による“Neurobiological basis of drug and alcohol abuse(薬物・アルコール乱用の神経生物学的基礎)”と題した講演で,講演内容を筆者なりに要約すると,以下の通りである。機能的MRIやPETなど最近の新たな画像技術によって,物質依存の生物学的基盤-特に依存物質による強化(reinforcement),家族負因の影響,キューによって誘発される薬物欲求衝動(craving)などの理解に重要な情報がもたらされる。例えば,コカインやアルコールなどの依存物質摂取後には,短い周期の快気分(euphoric)エピソードが繰り返され,この変化と,脳波上α波の発作性出現の対応を認めている。また,アルコール依存症の家族歴のない人では,飲酒後容易にα波の増強を伴う酩酊を認めるが,アルコール依存症の家族歴を有する個人では,同じ飲酒量で,そうした変化を認め難い。さらにLukas博士は,コカイン依存症者にコカイン使用場面のビデオ呈示を行うと,ビデオ場面によってもcravillgが誘発され,その変化と,fMRIで前帯状回,左背側前・前頭葉の血流増加との関連を見出している。博士は,こうした研究の積み重ねによって各種依存物質に共通した強化のメカニズムが明らかにされ,さらに,薬物再摂取に直結するcravingを抑える新たな薬物の発見につながる可能性を指摘した。また,これは懇親会の席でLukas博士にお聴きしたことだが,競馬などへのpathological gamblerについても,コカイン依存者などと同様の変化が認められるということであった。
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