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精神医学の変貌とともに,その基礎論ともいうべき精神病理学の刷新が求められているが,1996年10月2,3日,新潟市音楽文化会館で開催された日本精神病理学会第19回大会は,こういう要請に十分応えるものである。このたび会長を務められた飯田真教授は,みずから「双生児研究と精神病理学」と題された会長講演を行われたが,多次元精神医学と実証的な方法論というコンセプトのもと,本大会の通奏低音を担われたように思う。双生児症例を通して,神経症,分裂病,うつ病,双極性うつ病,非定型精神病,妄想性障害について,病前性格,臨床症状,経過予後を入念に分析しながら,予後を左右する「治療因」の意義に改めて刮目を促された。音楽にゆかりの会場にふさわしく,私が本大会で拝聴できたすべての発表には,この通奏低音が万遍なくしみわたり,2日間のあいだ,参加者全員による1つのオーケストレーションが実現したといっても過言ではない。
会長講演にひき続き大ホールで行われたシンポジウムは,「精神病理学の可能性」を謳い,生物学的研究,計量精神医学,治療論的観点,社会精神医学という4つの局面とのインターフェースを試みるというものである。丹羽真一氏は「認知科学からみた分裂病の症状論」と題し,遺伝子・物質レベル—脳機能レベル—症状レベルという階層の非線型性,陽性症状と陰性症状の思弁的二分法に代わる三症候群仮説など,最新の話題にふれた。林直樹氏らは分裂病者の「病識の成り立ちと病に対する構え」について,独自に開発した患者役割受容(いわば「障害受容」)スケールを駆使しつつ,周到な計量精神医学的アプローチを試み,その成果の一端にふれた。丹羽氏はメタ表象機能に関する「心の理論(theory of mind)」仮説に拡げることで,林氏らは当該の評価が経過予後論や治療的介入に役立つと強調することで,それぞれ立派に精神病理学への架橋を成し遂げたように思う。
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