「精神医学」への手紙
Letter—ベネデッティからのクリスマスカード
人見 一彦
1
1近畿大学医学部精神神経科
pp.470
発行日 1992年5月15日
Published Date 1992/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903241
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バーゼル大学の精神療法部門で長く活躍され,現在名誉教授であるベネデッティ(G. Benedetti)からのクリスマスカードは例年と趣を異にし,旧い関係に新しい血を注ぎたいという書き出しで始まる,便箋3枚にタイプされたものであった。
世界の各地で起こった震憾すべき出来事,特にここ数カ月間のユーゴスラビアの出来事に触れ,痛み,怒り,失神,孤独が私達をとらえる中で,彼は一方では病める患者達の側で人間の運命を自らの中に現前化させながら,他方では一つの心理的現象が存在するために存在の起源において生じる,自由へと近づくための移行として年齢を重ねていることを知覚しつつ,そのような状況を克服する試みを始めたいと書く。この世界の不正は驚愕すべきものである。正義の理念はそれが心理的現象にとどまるかぎり,一つの極めて不完全な実現不可能な自我-理想にすぎないであろう。しかし,我々は理念自体を首尾一貫しないものと考えることができない。なぜなら,その首尾一貫性に理念自体の完全性が属し,その完全性に理念の実存が属しているからである。そしてプラトンの,固有の現実が理念自体であるという言葉を引用する。
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