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特集 精神疾患の現代的病像をめぐって
感情障害とその周辺—「逃避型抑うつ・中年型」について
Some Features of Affective Disorder in Recent Years: On middle age type of “withdrawal depression”
松本 雅彦
1
,
大森 和広
2
Masahiko Matsumoto
1
,
Kazuhiro Ohmori
2
1京都大学医療技術短期大学部
2公立豊岡病院精神神経科
1College of Medical Technology, Kyoto University
2Toyooka Hospital
pp.829-838
発行日 1990年8月15日
Published Date 1990/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902889
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I.はじめに
感情障害とりわけ「抑うつ状態」は,その症状としての「抑うつ感情」「罪責感」が一見我々の心性と著しくは隔たっていないがために,一般の精神科臨床で深い考察の対象となることもなく,むしろ等閑にされがちであった。ことにimipramineに代表される三環系抗うつ剤が登場し,またTellenbach H34)によるメランコリー親和型性格者の「うつ病」発症状況の解明が日本に導入されて,「うつ病」の治療は文字通り精神科医の自家薬籠中のものになったかにみえる。「くすり」の服用と「休息」との処方が定式化されることによって,かなりの数の「うつ病」が成功裡に治療することができるようになっている。一時は「うつ病の治療が確立されて,これまで不確かだった治療者としての精神科医も,やっとそのアイデンティティを手に入れることができた」とまでいわれた。
しかし,この治療のしやすさが却ってうつ病に対する深い考察を妨げているのではないか。また我々の臨床を振り返れば,ことに外来診療において,かなりの長期にわたる服薬を続けている患者の一群の決して少なくはない事実にも気づかざるをえない。本来,phasisch,episodischであるはずの病態が,いつまでも持続する。しかもそれらは,決して重症とはいえず,ある程度の家庭生活,社会生活を維持しながらも,外来診療からまた服薬から離脱できない一群である。つまり「軽症にして慢性」とでも形容しうるこれら患者が意外に外来患者の中の多数を占めている事実を顧みるとき,我々は改めて「抑うつ状態」の病態への再考を促される。
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