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はじめに
認知機能は情動機能と共に高次神経活動を支える大きな要素である。本稿で考察の対象とする視覚機能と聴覚機能は,霊長類においてコミュニケーションの手段として発達した系である。特に言語を獲得したヒトにおいて,その精神機能は視覚と聴覚の系に大きく依存している。そのうち研究がより進んでいる視覚系に重きを置いて,それらの脳内機構について基礎医学の立場から比較検討を試みる。
そのまえに,光と音の物理的性質について触れておく。音については空気や水など媒質の波動によって伝播するという波動説が17〜18世紀には定まっていたが,当時,光に関しては,「大粒子は赤色,小粒子は紫色」というふうに,光の(微)粒子が網膜に光の感覚を与えるという17世紀以来のニュートンの粒子説が有力で,これに対して,「あらゆる現象は物質の運動によって起こる」と主張したホイヘンスは「光を微粒子の運動とみることによっては,光の伝播の速さや光線の交叉は説明できない」として1690年,光の波動説を唱えた。爾来,粒子論者と波動論者との論争が続いたが,19世紀に入り約30年の間は,旧来のニュートンの粒子説が否定されて光をエーテルの運動の波とみるホイヘンスの波動説が復活した。19世紀半ばを過ぎて,マクスウエルは電磁場の理論を展開し,「マクスウェルの方程式」の基本的な結論として,光速度で伝播する電磁波の存在を導きだし,光と電磁気を結びつけた。しかしこの立証は電子が原子の構造と密接に結びついているとして光の粒子性を基礎づけた,アインシュタインの光量子説(1905)の出現を俟たねばならなかった。すなわち,量子の発見(1900)後に,古典物理学の概念がそのままでは微視的領域で成立しないことが明らかになった。次いで,光を含めてすべての物質は粒子性と波動性を持っているとするド・ブロイらの古典論と量子論との折衷である前期量子論の期間を経て,1925〜26年,量子論あるいは量子力学がハイゼンベルクやシュレーディンガーらによって理論的に体系づけられた。量子論では,状態と観測量の概念が古典論とまったく異なり,これが量子論の論理構造の基礎となっている。大きさのない1個の粒子を考えるとき,その状態は,古典論ではその粒子の位置と速度によって表されるが,量子論では粒子的性質と波動的性質とを同時に備えた波動関数で表される。
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