書評
—森田達也,明智龍男 著—死を前にしたひとのこころを読み解く 緩和ケア÷精神医学
兼本 浩祐
1
1愛知医大
pp.1491
発行日 2024年11月15日
Published Date 2024/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405207430
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この本の著者の1人,明智龍男先生のお話は直接何度か聞かせていただき,同じ地域で働いていたこともあって,そのお人柄も良く知っているつもりでいたのだが,この本を通読して改めて思ったことがある。
まずは,「変えられるものを変える勇気を,変えられないものを受け容れる冷静さを,そして,変えられるものと変えられないものを区別できる知恵を」というニーバーの祈りのことである。以前,明智先生からそのお話を聞いて感銘を受け,ニーバーの本も購入したが,この言葉にどうして自分が惹かれたのか,今回の本を読んで改めて感ずるところがあった。この言葉は,精神科医が身体に関わろうとする時に,常に突きつけられる困難を集約している。死はもっとも端的に身体の問題であるのはいうまでもないが,たとえば評者が専門とするてんかんも,時に抗いがたい身体の問題として現れる。死は究極の変えることができない私たちの身体の宿命である。てんかんは多くの場合は幸いなことに「変えられる」が,しかし時には身体の論理が私たちを圧倒し,その時点では人の力では抗うことができないてんかんの発作も存在する。目の前にある苦しみが,変えることができるものなのか,それとも変えられないものなのかを見誤ることは許されない。しかし神ならぬ私たちはそれでも時として見誤るのである。だから,どうか間違いませんようにと祈らざるをえない。
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