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2015年に労働安全衛生法の改正に基づき職場のストレスチェック制度が始まり,職場のストレスが注目されるようになった。ストレスチェックの結果を集団ごとに集計,分析をしてその結果に基づく職場環境改善を進めることが事業主の努力義務となった。職場のセクシュアルハラスメント対策,妊娠・出産・育児・介護休業などに関するハラスメント対策も事業主の義務となっている。2020年労働施策総合推進法の改正により,いわゆるパワハラ防止法が施行され,事業主(会社側)のパワーハラスメント対策が法的に義務付けられることとなった。2000年以降,わが国では児童虐待,いじめの防止に関する法整備が行われてきたが,職場におけるセクハラ,パワハラへの対策も他者からの心理的被害を法律によってなんとかしようという日本政府による一連の対策であると理解される。法制化による対策が必要なほど,これらの心理的被害が深刻であると筆者は理解している。このように,最近産業精神保健をめぐる状況は法制度の面から大きく変化し,産業精神保健にかかわる精神科医,保健師,看護師,心理師にはこれらの変化の中で現状を理解し,対策に関与することが求められている。さらに,精神科医は産業医としての業務だけでなく,労働者の主治医の立場からも産業精神保健に関与する。前者は一部の精神科医にとどまるが,後者の役割はすべての精神科医が担わなくてはならない。2020年にはCOVID-19流行による不景気,倒産企業数の増加,リモートワーク,失業者増が起こり,職場における精神保健は重要な国家的課題となっている。産業における精神医学の役割はますます大きくなっており,精神医学は産業精神保健に積極的に貢献しなくてはならない。本特集では,産業精神保健の現状と課題について各分野の専門家に解説いただいた。それぞれの論文は産業精神保健の重要な点や最近の変化を指摘しており,産業精神保健を正しく理解するのに役立つと思う。産業精神保健に精神医学が貢献することに本特集が役立つことを期待する。
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