特集 精神科臨床における共同意思決定(SDM)
特集にあたって
藤井 千代
1
1国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部
pp.1299
発行日 2020年10月15日
Published Date 2020/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405206191
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精神科臨床において,近年では,客観的な回復のみならずパーソナル・リカバリーに着目することの重要性が強調されています。パーソナル・リカバリーとは,障害によるさまざまな制限を持ちながらも希望を実現し,満足できる生活を送ることを意味し,主として当事者の語りから導き出された概念とされています。パーソナル・リカバリーを志向した治療・支援の提供にあたっては,治療者によるパターナリスティックな方針決定ではなく,当事者と治療者による双方向性の治療方針決定法である共同意思決定(shared decision making:SDM),すなわち本人の希望や価値観,主体性を尊重したかかわりが重要であるとされます。しかしながら,精神科臨床においては,本人の意思を知ること自体が困難なことも少なくないのが実情であり,本人の自律を尊重しようとした場合,倫理原則の対立が生じてジレンマ状態に陥ることも多々あります。
2014年にわが国が批准した「障害者の権利に関する条約」においても,最も重要な基本原則として個人の自律の尊重が掲げられ,締結国には障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用するための適当な措置をとることが求められています。これはすなわち,障害を持つ誰もが自ら意思決定することができるよう,必要な支援を可能な限り尽くすという意思決定支援原則を規定したものです。このような国際的な要請もある中で,精神障害者の意思の表明の支援や,意思決定支援のあり方が注目されてきています。
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