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はじめに
患者から「先生,運転してもよいでしょうか?」と尋ねられた際,多くの精神科医は自信を持って答えることができないのが現状であろう。この背景には,道路交通法(以下,道交法)上,「そううつ病(そう病・うつ病を含む)」等が運転免許の相対的欠格事項とされていることに加え,自動車運転死傷行為処罰法によって治療薬や精神疾患の影響下にある交通事故が厳罰の対象とされる可能性があることや,ほとんどの向精神薬の添付文書が自動車運転等を画一的に禁止していることが大きく影響していると考えられる。しかし,現実には,服薬しながら自動車運転を続けている精神疾患患者は少なくない5,9,11)。
わが国における精神疾患患者の運転適性に関する議論は,今世紀に入り,運転関連法制度の改正・整備に伴ってにわかに注目されるようになったが,現実に即さない制度内容も影響して,十分な社会的コンセンサスを得ている感はない。1960年6月の道交法の施行以来,約半世紀にわたって,「精神病者」は,自動車運転免許証の取得・保持の絶対欠格とされていた。1999年に「障害者に係る欠格事項の見直しについて」が決定され,2001年の道交法の改正により,精神疾患は,運転への支障の有無により運転免許の取得の可否を個別に判断する「相対的欠格事由」となり,主治医の診断書や臨時適性検査によって一定の条件を満たせば,免許が許可されることとなった。ここにおいてようやく,精神疾患患者の運転適性に関する具体的な議論を社会的に行うことができるようになったが16),冒頭の状況や諸家が繰り返し示しているように6,11),日本においては依然,臨床医と患者が運転に関して率直に話し合えるような環境は整っていない。
本稿では,今日の精神科臨床において,患者の自動車運転を考える際の問題について,法制度や学会ガイドラインを整理して示すとともに,海外の動向や文献的検討を踏まえて議論し,臨床医が少しでも自信を持って,運転適性評価や患者・家族への情報提供ができるようになることを目指したい。ここでは,筆者らに与えられたテーマに従って,主に気分障害患者を念頭に議論を進め,最後に,精神科医と患者が自動車運転に関して情報を共有しながら話し合う,運転に関する心理教育のあり方について考えてみたい。
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