巻頭言
タダより高いものはない
須田 史朗
1
1自治医科大学精神医学教室
pp.2-3
発行日 2016年1月15日
Published Date 2016/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205089
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平成24年,厚生労働省は企業に精神障害者の雇用を義務付ける方針を打ち出した。平成25年6月19日には「障害者の雇用の促進等に関する法律」が改正され,平成30年4月1日より精神障害者を雇用義務の対象に追加することが明確化された。今回の法改正には発達障害を精神障害に含めることや雇用の分野における障害を理由とする差別的取り扱いの禁止が盛り込まれている。それ以後,全国的にも精神障害者の就職件数は順調に増加している。しかし,筆者は正直なところ,実際の臨床現場で精神障害者の就職が増加しているという印象を持っていない。患者さんからも「またダメでした」「見習い期間中に解雇されました」という悲嘆の声が毎月のように聞こえてくる。
厚生労働省職業安定局の報告によると,平成26年の障害者全体の就職件数は約8万5千件であり,前年比で8.6%の増加となっている。そのうち精神障害者の就職件数は3万5千件であり,これは身体障害者の就職件数2万8千件を大きく上回る数値である。また前年比では17.5%と大幅に増加している。しかし,従業員50人以上の民間企業に就職している障害者数約43万人のうち,31万人は身体障害者であり全体の73%を占めている一方で,精神障害者数は2万8千人であり,全体のわずか6.5%に過ぎない。それでも数値だけをみると,前年比3.6%の増加にはなっているが,就職件数の増加率17.5%と比較すると明らかに低いと考えざるを得ない。この数値の意味するところは,精神障害者のきわめて高い早期離職率である1)。精神障害者の就職件数は順調に増加しているが,実際に継続して就労できている精神障害者はまだまだ少ないという現実がある。
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