創刊30周年記念特集 精神医学—最近の進歩 第1部
Transmissible dementia
立石 潤
1
Jun Tateishi
1
1九州大学医学部脳神経病研究施設病理部門
1Department of Neuropathology, Neurological Institute, Faculty of Medicine, Kyushu University
pp.299-305
発行日 1988年3月15日
Published Date 1988/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204487
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1.はじめに
かつて初老期痴呆症に分類されていたクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が遅発性感染症であることが明らかにされて以来,“transmissible(virus)dementia―感染性痴呆”という言葉が使われるようになった1)。これにはアルツハイマー病(AD)を中心とする変性型痴呆の一部にも感染性のものがあるかもしれないとの仮説も加味されている。
しかしあらゆる脳炎では中枢神経症状として痴呆を呈しうる。とくに亜急性〜慢性に経過するウイルス脳炎や,潜伏期間が長く,神経系を侵す遅発性ウイルス感染症が問題になる。これに属する疾患として麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎(SSPE),パポーバウイルスによる進行性多巣性白質脳症(PML),風疹ウイルスによる進行性風疹脳炎などが挙げられ,AIDS(エイズ)もこれに含まれよう。エイズは免疫不全による全身疾患であるため,病変が単一の臓器に限局するというSigurdssonのslow virus infectionの定義2)に反するが,最近問題になっているAIDS-dementia complexは原因ウイルスの脳への直接侵襲が好発することを示している。これらの脳炎では痴呆や多彩な精神症状以外に,意識障害や神経症状を伴い,痴呆のみで終始することはない。このうち痴呆が前景に立ち,感染の危険性の強いエイズとCJDを中心に述べる。
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