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I.はじめに
抗うつ薬の作用機序に関する研究の初期にはモノアミン(MA)再取り込み阻害作用が注目され,うつ病のMA欠乏仮説が唱えられた4,25)。しかしMA再取り込み阻害は急性実験で確かめられたものであり,臨床効果発現までに要する時間(1〜2週間)を説明することは困難である。さらに,ミアンセリン7)やイプリンドール23)などMA再取り込み阻害作用をもたない抗うつ薬が開発されるにいたり,MA再取り込み阻害作用を抗うつ作用の本態とする考えは支持されがたいものとなっている。最近では各種神経伝達物質の受容体に関する研究の進歩に伴い,抗うつ薬についても受容体およびそれ以後の情報伝達機構に対する慢性効果に関する研究が主流となっている。なかでも注目を集めているのはβ受容体数の減少,β受容体と共役するアデニレート・サイクレース活性の低下および5-HT2受容体数の減少である。その主たる理由として,現象発現までの時間と臨床効果発現までの時間がよく一致していること,および多くの抗うつ薬に共通してみられる現象であることがあげられる。(詳しくはすぐれた総説1,19,31)が発表されているので参照されたい。)
抗うつ薬はこれまでに明らかになったようにシナプス前・後部各々に作用点を有しており,慢性効果としてのシナプス後部の変化を考える際,シナプス前部の変化との関連を含めた総合的な理解がえられなければ,真の抗うつ効果ひいてはうつ病の病態生理の解明にはつながらないものと考えられる。しかし,β受容体に関してみるとノルエピネフリン(NE)ニューロンの破壊32),シナプス前部α2受容体拮抗薬の併用11,26),シナプス間隙内NE代謝物濃度の測定21)などの実験から,受容体数減少にNEニューロンの存在の必要性は確認されているが,シナプス間隙内NEとβ受容体の変化との関連についてはいまだ明確な結論はえられていない。5-HT2受容体についても,セロトニン(5-HT)ニューロン破壊によって変化せず16,20),5-HT2受容体拮抗薬の反復投与で受容体数の減少を生じる3)など奇妙な性格を示し,受容体数減少と5-HTニューロンおよびシナプス間隙内5-HT濃度の変化との関連については疑問視される傾向にあり,研究も乏しい。
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