- 有料閲覧
- 文献概要
第二次世界大戦後の医療の専門化,細分化は,一方でさまざまな矛盾をひきおこした。医療施設の偏った分布,患者のたらい回しや検査偏重主義による高コスト,治療の非継続性,また医療の受けにくさの問題など,さらに最も重要なことは,臓器中心診療による身体主義と精神無視のため,「病気をみて病人をみない」医療の非人間化が生じたことである。これらの反省より心身両面から病める人を治療する全人的医療が強調され,プライマリ・ケア(一次医療,以下PCと略す)が1966年頃に米国で提唱されて以来,現在国内においても大きな関心を集めてきている。
PCは,医療機関配分の立場から分類するとより専門的な医療である二次,三次医療に対するものであり,医療内容からは,(1)急に生じた病気に対して,いちはやく医療サービスを提供する(episodic care),(2)個人や家族の健康を継続的に管理し,慢性疾患などが悪化しないように管理し,病気を予防するための手段や教育を行い,健康維持のための生活指導を行う(distributive care),(3)必要な場合には,タイミングよく専門病院に紹介して,担当医のひとりよがりでなく,ナースその他の医療チームとも協力し,またその社会で利用できる医療システムを利用して,レベルの高い包括的な医療を受けられるように配慮する(comprehensive care),という3つの特色が挙げられ,このような医療を担って行くPC医は,(1)小児から老人まで,また男女ともに,家族の各員に起こる普通よくある一般的な病気を浅くても広く理解し,取り扱える能力,(2)基礎的な技能と経験が必要とされているがこの基礎的な技能と経験というのは患者に面接をして上手なコミュニケーションをもち,病歴を正しくとり,診察して正しい所見を取り出すことができ,必要な診断または治療手技ができるという意味である,(3)個人や家族が日常よく遭遇する病気や諸問題(人がよくかかる病気や事故の処置,救急処置,伝染病の取り扱い,母子保健や家族計画などの指導)の処理や指導能力,などの臨床能力や経験がなければならないとされている。
Copyright © 1986, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.