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I.はじめに
飲酒後のエチルアルコールの代謝に関与する酵素として,エチルアルコールをアセトアルデヒドに分解するアルコール脱水素酵素(ADH)と,アセトアルデヒドを醋酸に分解するアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が知られており,醋酸は最終的に炭酸ガスと水に分解される。飲酒後の血中アセトアルデヒド濃度はADHではなくALDHによって規定されていること,またアセトアルデヒドはエチルアルコールの数百倍の毒性をもつこと,なども明らかにされている1)。
アルデヒド脱水素酵素(ALDH)には,主要な2種のアイソザイムが存在している。アセトアルデヒドと低濃度で反応する親和性の高いlow Km enzyme(ALDH-Ⅰ)と高濃度になってはじめて反応する親和性の低いhigh Km enzyme(ALDH-Ⅱ)である。ALDH-Ⅰの欠損個体は,アルコール飲酒後一過性の急性症状であるflushing徴候(顔面紅潮,心拍数増加等)を呈するが,このような個体は日本人などのモンゴロイド系人種の約半数を占めている。ところが,欧米においてはこのような欠損個体は稀であり,人種差の存在が知られている6)。一方high Km enzymeについては,いわゆるアルコール依存物質(THP)形成との関連において,慢性アルコール症の成立に際して病因的役割を荷っている可能性が示唆されている4,6)。
もとよりアルコール症は,bio-psycho-sociological-disordersであるが,その遣伝要因の役割についてはすでに双生児研究,家系研究,養子研究により明らかにされている2,3)。近年,人類遺伝学の進歩により,遺伝要因の酵素レベルでの検討が発展しつつある。われわれは,アルコール症の酵素レベルの病因解明を目指して本研究を行なったが,興味ある結果が得られたので報告したい。
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