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Ⅰ.まえがき
睡眠のポリグラフ的記録は今日の睡眠研究の一般的基礎ともいえる技術で,脳波,心電図,筋電図,眼球電位図など複数の生理現象を同時・連続的に記録するという一見単純にみえる技法である。しかし近年の睡眠研究の輝かしい起点となったrapid eye movement,そしてREM-sleepの発見はまぎれもなくこのポリグラフ法の発展に伴うものであり,生理学の世界における一つの"コロンブスの卵"のような役割を果たした。
ポリグラフ法の本質的意味は,複数の生理現象の間の関係を知ることであり,さらに生理現象の長時間にわたる変動を求めることである。例えば心電図や脳波において,それぞれの波形の解析は当然のことであるが,その2つの生理現象が覚醒と睡眠の各段階でどのような関係にあるのかを求め,さらに24時間にわたってどのように変動するのかを求めるというようなところにポリグラフの積極的な意味がある。この立場に立ってみると,睡眠の生理学的知識は決して豊かではなく,全般に概略的な知識を越えたものは未だ少ない。多現象の継時的変動の中に含まれる情報の量が著しく大きいことが解析を阻んできた。今日ポリグラフ的な方法が広く用いられるようになったのは,電子的処理技術の発展によって多量のデータ処理が実際に可能になってきたという背景がある。かつてはほとんど実行不可能であった莫大な処理量を高速度で行なうことができるようになった。しかしこれらの処理は,元来用手的計測,用手的計算などを土台にして発達してきたものであって,電子的処理装置や演算装置(広義のコンピュータ)を用いることによって何か直ちに異質の世界が造り出されるものと考える必要は無い。しかしまた一方で電子的処理装置が人間の能力を越える面を持っているのも事実で,特に計測について高い分解能(精密さ)を持つことと処理速度が桁外れに速いことは著しいメリットであろう。そしてこの能力を利用することにより,睡眠ポリグラムの解析についても用手的な方法ではまったく不可能な処理の領域が開けてきた。これらは用手的でないという意味で自動分析(解析)とも呼ばれるが,上に述べたように単に自動的に働くという意味のみではなく,精度や速度を高め,さらには莫大な作業量を扱い得るなどの面から,次々に新しい分析法や新しい情報が開拓されており,今後も一層の発展が期待される。
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