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I.はじめに
神経症は,主に誘因とパーソナリティという,2つの大きな要因のかかわりの中で理解される。パーソナリティの発達障害と,それに及ぼす誘因との関係は,S. Freudが精神分析理論を発展させる中で,指摘していることは周知のとおりである。
しかし,神経症はまた社会的存在としての人間性の病理とも考えられ,社会的要因を考慮に入れる必要もある2)。これまで神経症の病像や成因が患者の社会的条件(例えば,性別,学歴,職業,社会的地位など)だけでなく,個人を越えた時代文化的な特徴との関係があることも明らかにされている5,9)。
ところで,E. H. Erikson1)(1959)は,精神分析,児童分析,比較文化論,ならびに対人関係論的見地を踏まえた,自我心理学の立場から,epigenesisなる概念を提唱し発展させた。つまり,人格の社会心理的側面にみられる世代心理の特性に注目し,人間行動の理解を深めようとしたのである。この彼の考え方の起源は,Freudの口愛期,肛門愛期,男根期,エディプス期といった,リビドー発達論にさかのぼることができる。ところが,Eriksonは,Freudの幼児期への重視限定を越えて,しかも人間性の成長発展を社会とのかかわりの中から捉え,広く人生そのものを8段階に分け,各世代の特徴を明らかにしたのである。つまり,(1)基本的信頼と基本的不信,(2)自律性と恥と疑惑,(3)積極性と罪悪感,(4)生産性と劣等感,(5)同一性と役割の混乱,(5)親密さと孤独,(7)生殖性と停滞,(8)自我の完全性と絶望,がそれらである。
さらに西園7,8)(1972)はこのライフサイクル説をふまえて,新しい神経症論を展開している。それによると,幼児期での種々の体験や対人関係といった要因が強く作用し,世代的特徴の少ない神経症と,世代心理との絡みで生じやすく,世代的特徴をよく現わしている神経症とがあることをつきとめている。これは,Freudが初期に提唱した,精神神経症psychoneurosisと現実神経症actualneurosisという,神経症二元論的理解の現代版であるとしている。
ところで,心気神経症は精神的葛藤を身体症状として訴えるものと理解される。そしてそれは,人間の基本的不安の一つである生命喪失の不安にかかわるものであるだけに,すべての世代に起こりうるものである。ただ,それが具体的に心気神経症として表現されるには,患者のパーソナリティや心因が関与し,それらの違いによって症状構造も多様化している。例えば,西園・田辺ら6,10)(1969,1973)は心気神経症には,(1)焦点の定まらない多彩な身体症状,(2)身体感覚の増大,(3)身体病の確信,(4)医師の説得,保証に反応しない,(5)精神生活を話題にしない,という5つの臨床的特徴があると指摘し,中核群と辺縁群に類型分類して詳細に論述している。その中で,心気的態度に重点を置き,一つの心気神経症としての疾患単位を確立している。
今回,私は心気神経症の理解を深あるため心気神経症をライフサイクル的立場から考察を加え,その特徴について論じたい。
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