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I.はじめに
ブリティッシュ・コロンビア大学は緑の森のなかにあった。広さ120万坪という広大なキャンパスにはポプラ,にれ,かし,かえで等北国の樹々が亭々として天にそびえ,所々にドグウッドの白い花やマウンテン・アッシュの赤い実が色彩を添えていた。3千人を収容するというウォルター・ゲージ・レジデンスと呼ばれている学生寮が今度の会議の参加者の宿舎にあてられていて,会場や食堂にも近く,そこでわれわれは快適な一週間を送った。
隔年に開かれている世界精神衛生連盟の1977年度の会議は林宗義教授を会長に8月21日から26日までバンクーバーで開催された。日本からは百数十人の参加者があったようだ。8月21日,44カ国から2千人の参加者を集めて盛大な開会式となった。歓迎の挨拶を7ヵ国語で述べる林会長の上気した晴やかな顔がひときわ印象的であった。
5日間,午前中は全体に向けての講演会。たとえば,「人々による健康,今,ここで」(バージニア・サティア),「世界の傷つき,障害を持ち,弱点ある人々を知り,手をさしのばし,助けることについて」(マーガレット・ミード),「科学的革命,社会変化と不安な世界」(バートラム・ブラウン),「有効な精神衛生対策とは」(ノーマン・ザルトリウス)など10幾つかのテーマを掲げて,この畑で高名な学者を講演者にあて,世界各国からの討論者を配した講演会の会場には連日千人をこす聴衆を集めて盛況であった。
全体に向けての講演会としては8月24日の科学討論会,「精神衛生の専門家をわれわれは必要としない」での主張者,イワン・イーリィッチ対反対討論者,モーリス・カーステアスの討論が一つの呼び物であった。しかし,なんといっても今大会のハイライトはアメリカ大統領夫人,ロザリン・カーターの招待特別講演であったようだ。ファースト・レディとしての初めてのカナダ訪問は大統領精神衛生委員会の名誉会長の肩書での参加でもあり,熱烈歓迎であった。
この会議でのハイライト部分を幾つか摘要的にメモからお伝えしておこう。
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