Japanese
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研究と報告
嫉妬(不実)妄想患者のErosの精神病理—殺人未遂の2症例より
Psychopathological Study of Eros on the Patients with the Delusion of Jealousy (Infidelity): Two Cases of Attempted Murders
倉持 弘
1
,
羽田 忠
1
Hiroshi Kuramochi
1
,
Tadashi Haneda
1
1茨城県立友部病院
1Ibaraki Prefectural Tomobe Hospital
pp.741-748
発行日 1976年7月15日
Published Date 1976/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202507
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Ⅰ.まえおき
ここに報告する症例A,Bは,初発時より純粋な嫉妬妄想を長期間もち続け,症状発展の窮地において,妄想対象の配偶者に殺人未遂の犯行に及び,共に当病院で司法鑑定を受けた例である。Aは現在なお問題事例として未決拘留中である。Bは不起訴後当院に長期入院し,最近死亡するまでの生涯が追跡できた貴重例なので,本論で取り上げた。
もともと,jealousy,jalousie,Eifersuchtといった言葉はラテン語のzelus(熱中,熱情)から出発しているが,昔も今も普遍的な意味をもたされている。本論と関係ある興味ある事柄は,フランス語のjalousieが“blind”または“shutter”の意味に使われたことである(Shepherd, M. 21),Robbe-Grillet, A. 20))。つまり,ブラインドは窓おおいであり,内から外を見ることもできるし,傾け方によっては外から内も見える。無論閉ざされれば,何も見えない。この〈見える〉〈見えない〉のからくりの陰に,疑わしくも滑稽な,愛人の情事が散見されるという曰くあり気な情景に意味がある。嫉妬者がまぎれもなく,〈この目で見た〉という情景描写は,このブラインドをめぐってなお謎に満ちているが,彼らにとっては切実な実体的体験である。本論ではこれらの現象学的特性を,愛(Agape)に対するErosの様態から解析することを主眼としている。なお,「性の革命期」といわれている今日的文化情況から,嫉妬現象を見直すことも考えられた。
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