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I.はじめに
近年しだいにうつ病が,それも特に軽症からせいぜい中等症までのうつ痛が増加し,今日では精神科外来で最も多い病態の一つとなった。さいわいその治療については,imipramine以来amitriptyline,desipramine,trimipramine,nortriptyline,clomipramineなどの三環系抗うつ剤が相次いで開発され,一時代前に比べ薬物療法は大幅な進歩をとげた。しかし,他方三環系抗うつ剤による難治例の少なからずみられることも事実であり,昨今ではこの難治例の問題がうつ病研究の一つの課題となっているほどである。効果面,副作用面両面において,常により良い薬物を望む臨床家としては,一つの考え方として三環系以外の薬物の中から新しい抗うつ剤が出てこないかという期待をいだく。最近の世界的なリチウム研究はその一つの現れともいえよう。
さて1967年にフランスのS. E. S. I. F. 研究所で開発されたsulpiride(化学名:N-〔(1-ethyl-2-pyrrolidinyl) methyl〕-2-methoxy-5-sulfamoylbenzamide)は第一に化学構造(図1)や薬理学的性質が従来のmajor tranquilizer,minor tranquilizer,抗うつ剤と全く異なること,第二に臨床的にはneurolepticaとしての抗精神病効果とthymoanalepticaとしての抑制除去効果,抗うつ効果を有すること,そして最後に消化性潰瘍に対する効果が認められており,事実わが国でもすでに胃・十二指腸潰瘍治療剤として発売されていることなどによって,我々の注目をひいた。そこでまず著者のうち,由良ら20),河村ら8),中島ら14)はうつ状態および神経症に対する臨床試験を行ない,本剤が特に軽症うつ病に有効であり,その標的症状は主として抑うつ感情,意志抑制およびそれに伴う種々の身体的愁訴であること,副作用・随伴症状の出現頻度が低く軽微であること,従って一般科での使用も容易であろうことなどを既に報告した。そこでこの経験をもとにして,うつ病診断についてほぼ共通の基準を共有すると思われる数名の医師を選び,診断基準,治療方法(精神療法,生活指導)を統一した上で,本剤のうつ状態に対する有効性並びに安全性を客観的に確認するため,imipramine(図1)を標準薬として二重盲検法により比較検討した。
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