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I.緒言
大都市への人口集中による人口の過密化と,工業的立地条件にめぐまれない周辺地域における人口流出と過疎化とは,わが国だけではなく世界各国にみられる現象である4)8)。山陰地方は,このような意味での代表的な過疎地帯であり,とくに最近のいわゆる高度経済成長にともなって毎年中学校卒業者,高等学校卒業者など青少年層のかなりの部分が卒業と同時に京阪神地方その他の地域にむけ出郷している現状である。
著者らは日常の診療の経験から,精神疾患とくに精神分裂病の外来・入院患者のうちに,いったん山陰地方から出て大・中の都市で就職あるいは就学し,出郷先で発病して結局帰郷せざるをえなくなり,郷里の山陰地方で診療を受けている症例がかなり多いことに注目した。地方の小都市や農山漁村などから大都市に向かって流出した人たちがなんらかの理由でふたたび帰郷する現象は,一般に「Uターン現象」と呼ばれているが,著者らの経験は,このUターンの原因として精神障害がひとつの役割を果たしていることを示唆している。このような現象は,社会学的な問題であるだけではなく,健康な青少年層が都会にむけて流出し不健康者が過疎地帯に残るという地域の医療あるいは精神衛生の問題としても重要である。また他方では,このような症例において地方から大都会に出るという環境の急変とそれにともなう各種の精神的,身体的負担加重が実際に精神病の発病の原因あるいは誘因としてどの程度働いているのか,またそのような場合に精神病像や予後に他の症例とは異なった特徴があるかどうかなどの検討は,近年内外でさかんに行なわれている内因精神病に関する社会精神医学的研究1)2)3)7)12)や社会変動と精神障害との関係についての研究5)9)15)とも関連して興味深いものと思われる。
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