Japanese
English
研究と報告
長年,社会から遮断されて育った3きょうだい
Three Siblings with History of Long Term Isolation from Society
西田 博文
1
,
伊藤 禎子
2
,
高木 和子
2
,
山上 敏子
3
,
村田 豊久
3
Hirofumi Nishida
1
,
Satiko Ito
2
,
Kazuko Takagi
2
,
Toshiko Yamagami
3
,
Toyohisa Murata
3
1九州厚生年金病院
2聖マリヤ病院
3九州大学医学部精神医学教室
1Kyushu Kohsei Nenkin Hospital
2St. Maria Hospital
3Dept. of Psychiatry and Neurology, Kyushu Univ. School of Med.
pp.705-714
発行日 1972年8月15日
Published Date 1972/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201920
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I.はじめに
わたくしたちは,約10年間,親から外出を禁止され,両親以外との対人接触をまったくもたなかったという,きわめて特異な環境のもとに生育した3人のきょうだい(14歳,女;12歳,男;10歳,女)について,調査,研究する機会を得たので,彼らのパーソナリティの特性,ならびにその後の変化について報告したい。(以下,長子より順に,第Ⅰ子,第Ⅱ子,第Ⅲ子と略記する)。
パーソナリティがいかに形成されてゆくかという問題は,数多くの性格理論のなかで,最も重要な課題であろう。古来,素質論と環境論とが対立してきたことは,周知のとおりである。この複雑な課題に対して,“アマラとカマラ(Gesell, A.)”1)や,“アヴェロンの野生児(Itard, J.)”2)などの症例報告が多大の寄与をなした。ここに報告する症例は,これら2症例ほど環境が異例というわけではない。ただ,長期間にわたって両親以外の人々との接触をもたずに育ったという点で特異である。パーソナリティ形成過程において,対人関係が非常に重要な因子のひとつであることには,異論はないであろう。パーソナリティは,母親や家族,すなわちいわゆる第1次集団との狭い人間関係から,さらに家族外の第2次集団との接触,相互作用の過程のなかで発展し,展開してゆくと考えられているが,もし家族外との接触を体験しなかった場合,パーソナリティにいかなる影響があらわれるかという疑問は,精神医学的にも教育学的にも,はなはだ興味深い問題である。
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