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I.緒言
1952年にクロールプロマジン,レセルピンが精神科の特殊薬物療法として導入されて約10年,その後類似の薬物が数多く出現し,こんにちでは精神科領域とくに精神分裂病の治療においては,その中軸をなすようになつてきていることは誰しも認めるところであろう。しかもこれら薬物は安全かつ容易に与えうるところから,精神障害者のリハビリテーションの効果的な実践を含めて,その治療体系さえ変えるほどに劃期的な役割をはたしつつあるように思われる。すなわち単に急性期あるいは亜急性期の精神症状または慢性状態の精神症状を抑制するのに役立つのみならず,ふたたび病的体験の現われないように,アフターケアの段階においても,長期間服用せしめ,(維持量として),リハビリテーションを効果的ならしめようとする方向に精神障害者,ことに精神分裂病の治療の焦点が移りつつあるように思われる。したがつて特殊薬物の長期投与ということが,現実の問題として要請されてきている。これら薬物が使用され始めたころ,薬物の副作用あるいは随伴現象として多くの身体的反応があげられ,パーキンソン症候群で代表されるこれらの副作用は,使用当初こそ驚異的であつたが,こんにちでは日常茶飯事のこととしてむしろなれつこになつており,同時にそれらの副作用を抑制するアンタゴニスティックな作用を有する塩酸プロメタジンなどの使用により,このような副作用も,こんにちではほとんど問題にならなくなつている。ところでかかる特殊薬物を長期投与した場合,いかなる副作用ないし随伴現象が精神的,身体的に起こるものかに関してはまだあまり追求がなされていないようである。特殊薬物を長期間投与すると器質的障害,痴呆などがくると報告されていると聞いたことがあるが,われわれはまだその文献に接していないし,臨床的にそれを肯定するような経験もまだあまりないように思う。
われわれは特殊薬物長期投与のさいの副作用ないし随伴現象という観点から,臨床的に発見しうるものを種々検討したが,いわゆる慢性的副作用とみなされるものは,表題のもの以外には見出しえないようである。もちろん理論的には奇型とか,遺伝に関した問題が考えられるが,これらはなお将来の問題であろう。
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