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ライン沿いのドームで有名なケルンから,片道250kmをバスに乗つて日帰りで(ここのところは日本道路公団の各位にきいていただく),ビイレフェルトなる《ベエテル》というコロニイ式の収容施設を訪れたとき—ここは俗にテンカン村と称して,てんかん患者を主力に約7000人の精神疾患者を中心に人口約1万の町が美しく岡の上からふもとにかけてひろがつている—,院長のハルトという神父が,挨拶の最後に《てんかん患者には,薬よりも,人間の愛情が大切である》というブムケ教授の言葉を引用して,私どもと握手をしたが,こんど,西ヨーロッパの9つの国々の精神病院—大学の教室をふくめて—をまわつてみて—その数は20に少したりない—,せまい意味での治療面では,なあんだ…といつた感じをもつた人でも,少くとも,患者に対する《人間の愛情》という,われわれの心構えの基本となるべき一面では,残念なことに,完全に脱帽しなければならない思いをもつたにちがいない。
ピレネエ山脈をちよつととびこしただけで,スペイン人が,フランス人とははなはだ異質な人類であることを肌につよく感じるように,それぞれの国の精神病院は,またそれぞれの特色をもつ。いま,それを,いちいちのべている余裕はない。しかし,大ざつぱに,こんなわけかたはできるかもしれない。《小児分裂病?この世にそんなものあるかね?》という言葉(たとえば,フランクフルトのツツト教授)で代表される一派,一度は大西洋に近いほうの真似をして,インシュリン療法をやめてしまつたが,近年ふたたび,強力に復活した(たとえば,ホッフ教授のウィーン教室,あるいは,M・ブロイラー教授のチューリッヒ教室)ことによつて代表される一派など,あくどい言葉を使えば,反米的精神医学的思想地図といつたもので色わけすることができるかもしれない。
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