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はじめに
今更ではあるが,日本の精神医療は大きな転換期を迎えている。先日,大々的に報道されたOECDの資料によると,精神病床の多さと自殺率の高さなど,日本の精神医療制度はOECD諸国の中で,相変わらず突出していることが示された。すなわち,現状の精神医療体制には,その是非はともかく,脱施設化(地域移行,病床削減)や精神医療分野のスキルアップなど,強い変革圧力がかかっている。一方,うつ病などの気分障害やアルツハイマー病などの認知症を中心に,近年精神疾患患者数は増加しており,2011年12月,社会保障審議会医療部会において,医療計画に医療連携を記載すべき事項とされているいわゆる「4疾病5事業」に,新たに「精神疾患」を追加し,「5疾病5事業」とする意見がとりまとめられた。実際,それらの経緯を踏まえ,2012年3月には,精神疾患に関するものも含めて,医療計画関連通知が発出され,2013年度から,各都道府県で,原則,新たな医療計画の運用が開始されている。
これらの前提を踏まえると,今後の日本の精神医療が目指すべき方向は,少なくとも「アウトリーチ」,「自殺予防」,「うつ病」,「アルツハイマー病を含む認知症」などのキーワードでまとめられる。さらにそこに「少子高齢化」,「財政危機」などのキーワードが加わって,今後も予断を許さない状況が続くであろう。そのような中,今回筆者に与えられたテーマは「高齢うつ病者に対する早期介入の課題」に関して述べよというものである。早期介入とは,正確には,「発症してから,医療機関(できれば精神科医)に受診するまでの期間をできるだけ短縮する」ということであろう。その目的は,当然ながら,より効率的な医療・介護システムの構築とそれによる社会保障費の抑制に他ならない。
よく考えると,このテーマには上記に掲げたキーワードすべてに関わってくる。自殺予防とは,すなわち,うつ病対策であり,超高齢社会を考えると,その最大のターゲットは高齢うつ病者(うつ状態も含む)となろう。よって,今後の自殺予防対策として,(診療技術のさらなるスキルアップが必要だが)高齢うつ病の早期発見・早期介入が最も効果的であろう。また,うつは認知症,特にアルツハイマー病の強力な危険因子として,最近特に注目を集めている。その点も含め,高齢うつに対する効果的な早期介入が実現されれば,そのまま認知症予防につながる可能性もある。そこで,本稿では,上記キーワードを中心に,高齢うつ病者に対する早期介入の課題について簡単にまとめてみた。なお,紙面の関係もあり,高齢者うつ病の基礎的知見や疫学,また,うつと認知症との関連については,拙著16,17)を参照していただけると幸いである。
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