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はじめに
1980年代後半のアメリカ合衆国において,精神障害を持つ当事者の手記活動から始まったリカバリー運動は,早くも1990年代には先進諸国の精神保健政策の根幹に位置づけられるようになった。
わが国では,運動の実態もなく,概念すらもしばらく受け入れられず,ごく少数の発表と単発的な活動にすぎなかった。野中16)が概念整理のレビューを発表したのは2005年であるが,それでこの運動がわが国で展開するわけでもない。ところがここ数年の間に,わが国でも「リカバリー概念」が,当事者とその家族,専門家ばかりか,行政や議員に知られるようになった。おそらく,はじめて3障害共通の支援体制となった自立支援法をめぐる賛否両方の論議,障害者権利条約の批准を目指す具体的な政策論議に伴って,精神障害を持つ当事者の意見がますます重要性を帯び,当事者の活躍が目立つとともに,その活躍が当事者の回復を促し,その実態を多くの人々が目の当たりにするという良循環が,わが国の世論を変化させているのだと感じる。
もちろん,「リカバリー概念」そのものも,多様な意見の中におぼろげながら形が見えてきたのであって,理論的にも誤解の多い段階であるし,ましてや精神障害を持つ人々の多くが「リカバリー」を実現している実態があるわけでもない。しかし,リカバリーの可能性に気づいたことや,こうして統合失調症の予後改善を見通す議論に加えていただける状況自体が,わが国の精神保健サービス体制の新たな幕開けを意味しているものと信じる。
本論では,当事者のリカバリーおよび専門職側のリカバリー支援をめぐる成果研究に注目し,可能な限りエビデンスを探る立場から,統合失調症の予後改善に寄与するリカバリーについて論じたい。
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