Japanese
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特集 社会脳をめぐって
社会脳の研究動向
Social Brain: An update
村井 俊哉
1
Toshiya MURAI
1
1京都大学大学院医学研究科脳統御医科学系専攻脳病態生理学講座(精神医学)
1Department of Neuropsychiatry, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan
キーワード:
Social brain
,
Social cognition
,
Amygdala
,
Frontal lobe
,
Theory of mind
Keyword:
Social brain
,
Social cognition
,
Amygdala
,
Frontal lobe
,
Theory of mind
pp.217-222
発行日 2009年3月15日
Published Date 2009/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101378
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はじめに
筆者自身の経験では,10年ほど前にはまだ,社会認知(social cognition),社会脳(social brain),社会神経科学(social neuroscience)という言葉は耳慣れない用語だった。情動的表情認知と扁桃体の関係など,実質的には社会認知,社会脳を扱う研究にかかわっていても,まだそれらの研究は,情動の神経心理学などとして扱われていたように記憶する。
用語の問題だけでなく,これらのテーマに対する研究者の姿勢も随分変化してきたように感じる。10年ほど前は,社会認知のような曖昧なものを扱うことへ慎重な意見が,筆者の実感では大勢を占めており,社会認知の障害という角度から症例を報告しても,そのような曖昧な対象を論じる前に記憶・視知覚などの基本的な認知機能の障害を徹底的に押さえるべきである,といった慎重な意見も多かったように記憶している。
しかし最近では,社会脳,社会認知という概念は神経科学領域で十分な市民権を得,それに伴って,精神医学領域でも非常にポピュラーな概念となってきた。学会などの議論でも,慎重論よりも楽観論のほうが大勢となってきているように感じる。
本稿では,10年前の状況をまとめた社会認知・社会脳に関する代表的なレビュー論文1,2)を出発点とし,その後に出版された膨大な研究の中で,初期に提案された社会認知・社会脳の諸構想がどのように変遷してきたのかをみていくこととしたい。
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