巻頭言
時代と地域と個性
岡田 元宏
1
1三重大学大学院 神経感覚医学講座 精神病態学分野
pp.4-5
発行日 2008年1月15日
Published Date 2008/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101146
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私が精神医学にかかわり始めた20年ほど前には,教室内の症例カンファレンスで,現在症・生活歴・治療経過を含めた全経過からいかに合理的な診断を導くかに努力が注がれていたと思います。研修医だった私は,診断的解釈が異なると,治療法選択や予後に関しても論点の開きがさらに大きくなり,議論を進めることが困難となるために,診断に関する議論が白熱することは当然と考えていました。しかし,この議論に伝統的診断と操作的診断のイデオロギーの違いが加わると,議論が平行線となり,研修医として最も知りたかった,「今,苦慮している事項へのアドバイス・コンセンサス」が得られず落胆したことも珍しくなかったと思います。ところがおもしろいことに,その後のスーパーバイズの中で,カンファレンスでは自己の主張を曲げなかった指導医が,しばらくすると他のスタッフの意見を取り入れ,打開策を示してくれたことも多々あり,指導医との手探り的な耳学問が,今では懐かしく思えます。
私は学生時代から慣れ親しんできた津軽を離れ,三重県で第二の精神科医人生を歩み始め,1年になろうとしています。津軽と三重の社会通念・文化的特性の違いは予想以上に大きく,とまどいが続いてはいますが,徐々に理解できてきていると感じています。精神医学に関しても,操作的診断という共通言語によって三重大学スタッフとのコミュニケーションも得られていると思います。しかし,精神障害の地域性を操作的診断学で解釈することは予想以上に難しく,無力感さえ感じてきています。
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